「聴く力」を育てる音楽教育

エドガー・ウィレムスの音楽教育を日本で初めてご紹介するページです。

歌のためのテキスト①『No. 1: 2音から5音の歌』

以前の記事で、ウィレムスの教育実践では1時間のレッスンのうち、

1.聴覚育成に向けたアプローチ(20分)

2.リズム(10分)

3.歌(20分)

4.音や音楽に合わせた身体の動き(10分) 

というふうにおおよその時間配分が決められていることを書きました。

kazuenne.hatenablog.com

 

この時間配分を見ると、さまざまな実践の中でも特に聴覚育成と歌に重きがおかれていることがわかります。

歌の実践については、段階別に曲が変わるということはなく、継続的にたくさんの歌に親しむことになっていますので、いつものように【第1段階】というふうには分けずに書いていきたいと思います。

また、歌の実践とはいっても上手に歌えるようになることを目指しているわけではなく、あくまでも音楽を楽しみ、自発的に表現すること、さらには音を記憶し内的にイメージできること=聴覚育成を促すこと、を目指しています。(これについては後半に書きます)

ウィレムスの音楽教育はどんなものでも、最初はとにかく楽しんで楽しんで、音楽的な感覚を育ててから徐々にその裏付けとなる知識を与えていくという方法で進められますので、歌の実践においてもまずは子どもたちが歌そのものに親しむこと、楽しむこと、これが一番重要です。

そのため、特に導入期には子どもたちが親しみやすい、楽しく美しい歌を選び与えることを、何よりも大切にしています。

 

現在の実践で歌われているのは、ウィレムスが生前提示していた歌

これまで私が見てきた限り、現在のレッスンでは、ウィレムスが生前出版した全17冊の『教育の覚え書き帳』のうち、歌のためのテキスト『No.1  2音から5音の歌』、『No.2  音程の歌』、『No.2B  音程の歌(ピアノ伴奏付き)』に掲載されている曲たちが歌われているようです。

ウィレムスが生前に提示したことが、今に至るまでずっと継承されているんですね。

これらのテキストには、フランスなどヨーロッパ諸国の民謡や、ウィレムス自身の作曲によるオリジナルの歌が数多く載っています。

《キラキラ星》や《かっこう》など、日本でも馴染みのある曲もあります。

いずれにしても、シンプルで音楽的に美しいと判断された作品が選ばれています。

なお、『教育の覚え書き帳』の全体像についても以前記事にしたことがありますので、ご興味のある方はご覧ください。

kazuenne.hatenablog.com

 

『No.1: 2音から5音の歌』

今日は、『教育の覚え書き帳』の中から、歌のための最初のテキスト『No.1:2音から5音の歌(Chansons de deux à cinq notes)』についてご紹介します。

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よく考えてみると『2音から5音の歌』というのはちょっと不思議なタイトルなのですが、そのままの意味で、2つの音だけで書かれた歌にはじまり、それぞれ3つ、4つ、5つの音だけで書かれた歌たちが収められています。

要は、「いくつの音で構成されているか」という視点によって選ばれた曲たちということです。

その中身がどんな様子かというと、

 

・2音から成る歌=3曲(ファ-ミの短2度、ソ-ミの短3度、ラ-ファの長3度のみの歌)

・3音から成る歌=10曲

・4音から成る歌=3曲

・5音から成る歌=34曲

 

となっています。

「5音から成る歌」が圧倒的に多いですね!

2音と4音の歌はそれぞれ3曲ずつしか収められておらず、実際に現在の実践の場で歌われていることも少ない印象です。

また、これらのうちほとんどが長調の曲で、しかも譜面としてはハ長調で書かれているものが多いです。

とはいえ実際のレッスンの中ではいろいろな調に替えて歌われているので、ハ長調ばかりだということはあまり問題にはなりません。

それよりも、短調教会旋法の歌、拍子のない歌も少しばかり含まれてはいますが、その数がとても少ないので、導入期に短調教会旋法に親しみにくそうなことは懸念されるかと思います。

 

『2音から5音の歌』の序文に書かれていること

 『2音から5音の歌』の序文は、ウィレムスの弟子であったジャック・シャピュイ(Jacques Chapuis, 1926-2007)が書いています。

その中でシャピュイは、歌うことについて

子どもたちがただ楽しむためだけに歌うことは、自発的で生き生きとした音楽表現へと至らせるための最も確かな手段である。

と述べています。

つまり、この記事の冒頭にも少し書きましたが、歌うことの技能的な向上を目指しているのではなくて、音楽を楽しみ、いずれ自発的な音楽表現へと向かわせるための手段という側面を重視しているのですね。

また、この序文の中でシャピュイは、本書に掲載された歌の実践に際して、

 

・移調する

・母音唱する

・口を閉じて心の中で歌う

・メロディのリズムや拍、分割した拍を叩きながら歌う

・テンポやニュアンスを変化させて歌う

 

といったことも提案しています。

特に3番目に書いた「心の中で歌う」ということについては、ウィレムスの音楽教育がとても力を入れていることでもあり、本質的な目的でもありますので、特徴的な指示かと思います。

いずれにしても、こういった歌の実践を通して子どもたちの内に音楽性を育て、内的に(心の中で)音を聴き、感じる能力を育み、音楽的な感情を表現できるように導いていきます。

 

ウィレムスの実践で用いられる歌、オリジナルのものもそうでないものも本当にシンプルながら、思わず優しい気持ちになれるような美しい歌から、ついつい身体が動き出してしまうような躍動感にあふれる歌まで、魅力ある作品がたくさんです!

いつか皆様にもお披露目できると良いなと思っています。