今日は少し久しぶりにウィレムスの実践内容に関するお話をします。
これまでにも何度かご紹介してきたかもしれませんが、ウィレムスのレッスンでは、たくさんの歌が用いられます。
それらは、ウィレムス自身の作曲によるオリジナルのものであったり、フランスやヨーロッパに古くから伝わる民謡だったりします。
これを、フランスの子どもたちはフランス語で、イタリアの子どもたちはイタリア語で、スペインの子どもたちはスペイン語で歌います。(原曲はフランス語)
つまり、同じ歌を、どこの国の子どもたちも自分たちの言語で歌うことができるのです!
(他方、ウィレムスと同時代の音楽教育家コダーイは、学習者自身の国の民謡を用いることを推奨しています。)
というわけで、日本でもウィレムスの実践をやってみよう!と思った時に真っ先に立ちはだかるのが、歌の歌詞の問題......。
よく考えてみると、これがなかなか手ごわいということに気がついてしまいました。
そんなわけで、私は昨年頃から、実践の中でよく歌われる歌から順次「日本語の歌詞を考える」という予備的な研究に着手し始めていて、このことについて書いた論文もすでに公開されています。
今日はこの論文にも掲載した楽曲の中から一曲を取り上げて、「日本語の歌詞(暫定版)と、それを考えるにあたって試行錯誤したこと」をご紹介したいと思います。
5音の歌《ことり La Perdrix》
今日ご紹介するのは、レッスンの中で本当によく歌われている《ことり La Perdrix》という歌です。
素朴で美しく、穏やかな曲調で、みんなに親しまれています。
なお、この歌は、以前このブログでご紹介したことがある『教育の覚え書き帳』のうち『No. 1:2音から5音の歌』に掲載されています。
早速ですが、歌の楽譜とフランス語の歌詞、私の考えた日本語の歌詞が合わさった譜例はこちら↓。
この曲の前半部分(8小節目頭まで)はフランスで親しまれている子どもの歌ですが、後半の8小節は、ウィレムスが付け足しのように作曲したフレーズとなっています。
前半部分だけならばド-ソの5音のみで構成されているので確かに「5音の歌」なのですが、後半部分が加わることによって実際には「1オクターヴの歌」になっています。
しかし、ウィレムスの音楽教育では必ずこのオリジナルの後半部分も含めて歌われます。
さて、曲名の《La Perdrix》ですが、これは日本語では「やまうずら」という鳥を意味する単語です。
でも、そのまま「やまうずら」という曲名にしなかったのには次の二つの理由があります。
第一に、そもそも「やまうずら」が日本の子どもたちにとって馴染みのある鳥とは思えなかったこと。
第二に、こちらの方が重要なのですが、この曲、なんと歌詞が全部韻を踏んでいるんです!
ここで、フランス語の歌詞をご覧ください。
・「Do-ré-mi, La perdrix, 」→「イ」の母音
・「Mi-fa-sol, Prend son vol, 」→「オ」の母音
・「Fa-mi-ré, Dans un pré, 」→「エ」の母音
・「Mi-ré-do, au bord de l'eau, 」→「オ」の母音
いかがでしょう?
前半部分の歌詞を取り出してみただけでも、こんなふうに下線部のところが韻を踏むようにできています。
後半もずっと同様です。
歌詞と音名が一致しているところはそのまま日本語でも採用するとして、その後の部分については、あれこれ言葉を当てながら、ものすごく悩みました。
とりあえず、冒頭の歌詞を検討すると、「ドレミ」に続く歌詞は「イ」の母音にしなくてなりません。
そうした理由からも、「やまうずら」をそのまま曲名として採用することはできませんでした。
それに、音符を見ていただくとわかる通り、この部分は8分音符二つと4分音符の3つの音符でできています。
だから、原曲のリズム感を損ねないためにできれば「3文字」の言葉が良いな、と考えました。
「やまうずら」では、せわしないのです。
そうして決めたのが、「ことり」です。
こんな調子で一つ一つ、
① 「韻を踏む」という原則に従うこと
② 楽曲のリズム感を損ねないこと
③ 歌詞の意味がなるべくフランス語の原曲ものと変わりすぎてしまわないこと
に配慮して悩みながら考えた日本語の歌詞が、
・「ドレミ、ことり」
・「ミファソ、飛ぶよ」
・「ファミレ、草原へ」
・「ミレド、水辺を」
・「ドシラ、ラララ」
・「シラソ、飛ぶよ」
・「ラソファ、森や」
・「ミレド、水辺を」
現時点ではこんな感じになっています。
日本語だけに着目すると言葉の繋がりが不思議な感じになってしまいますが、韻を踏むことを優先した結果こんなふうになりました。
今後歌っていくうちに、多少の変更はあるかもしれません。
よろしければぜひ、皆さんも歌ってみてください!