「聴く力」を育てる音楽教育

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エドガー・ウィレムスの音楽教育研究

ウィレムス・レッスンの歌③《おさんぽ べんごし》

ウィレムスのレッスンで歌われる歌の日本語の歌詞のご紹介、①、②に続き、③です。

今のところ私が日本語の歌詞を考えられたのはこの三曲のみなので、ひとまず今回が最終回となります。

また新たな楽曲に取り組みましたらご紹介させてくださいね。

 

前回までの①、②の記事はこちら↓。

 

kazuenne.hatenablog.com

 

kazuenne.hatenablog.com

 

5音の歌《おさんぽ べんごし》

今日ご紹介するのは、《Il était un Avocat》という歌です。

この曲はウィレムスのオリジナルというわけではなくて、フランスで親しまれている子どもの歌です。

 

詳しい説明は後にして、最初に楽譜&歌詞を掲載します。

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《おさんぽべんごし Il était un Avocat》

 

この曲のタイトルである 'Il était un Avocat' は、

 

Il était=彼は〜だった

Avocat=弁護士

 

直訳すると「彼は弁護士だった」となります。 

真っ先に、「なぜ過去形?!」ってなりません...?

 

このタイトル、どのような日本語にしたら良いか、なかなか悩みました。

この過去形については、ひとまず「 "彼" は少なくとも今は弁護士の仕事をしていない」というふうに解釈して、そのことを表現するために「おやすみ弁護士」や「休日の弁護士」などといったタイトルを考えていました。

でも、「おやすみ」はGood nightの意味で捉えられてしまうかもしれないこと、「休日」という単語は子どもたちにとって馴染みがないかもしれないことを考慮して、「おさんぽ弁護士」になりました。

また、楽譜を見ていただくとわかる通り、曲の冒頭の歌詞も'Il était un Avocat' なのですが、2小節目を「べんごし」にした場合1小節目の 'Il était un' は8分音符4つ分しかないので、そこに収まる言葉、というのも大事なポイントでした。

その他に、個人的にはそもそも「弁護士」という言葉自体、多くの子どもにとって親しみがもてないのではないかと思っていて、これも例えば「パン屋さん」などに変えるべきか...でもそうすると全くの別物になってしまうからそのままが良いか...悩んだところではありました。

結果的にはそのままにしてあります。

 

これ以降の歌詞は単純で、3〜4小節、7〜8小節目には 'Tire lire lire' や 'Tire lire la' というオノマトペが当てられていることから、日本語でも曲のリズムに合わせたオノマトペで「ランラララ ララ」と「ランラララ ラ」にしてみました。

 

2番以降の歌詞については毎回最後に 'etc.' と表記されており、子どもたちが自由な発想でさまざまな歌詞を当てて楽しむことができるようになっています。

ウィレムスのテキストに掲載された2番の歌詞は 'Son p'tit chapeau sous le bras(彼の腕の下の小さな帽子)' なので、日本語でも同じような内容を反映しながら楽譜通りのリズムに収めた結果、「帽子 腕に 抱えて」としました。

 

3番は 'En tombant s'est cases l'bras(落ちながら腕を折った)' という歌詞で、この歌詞ゆえにか「短調で(譜例ではミの音にフラットをつけて)」歌うよう指示がなされています。

そこで日本語の歌詞は「すってんころりん 腕折った」としました。

...が、しかしながら、ここの歌詞、「転んで 腕折った」というようにすでに変更しています

理由は簡単で、こちらの方が歌いやすかった&覚えやすかったからです。

 

4番は再び長調に戻して 'Pourtant il n'en mourra pas(それでも彼は死なない)' と明るく歌われます。

この部分の日本語の歌詞については、まず「死ぬ」という表現を避けました。

当初は原曲のリズムを考慮して「仕方がないよ」、「でも へっちゃら 大丈夫」などといった歌詞を検討していましたが、最終的には3番の「転んで腕を折ってしまった」という歌詞を踏まえて、そして日本語で子どもたちに馴染みがあると思われる表現として、「痛いの 飛んでいけ」という歌詞にしてみました。

 

 

この曲は、すでにご紹介してきた①、②の歌とは異なり、歌詞が韻を踏んでいる箇所はありません。

そして、前の二曲が穏やかな曲調であったのに対して軽快なテンポで歌われます。

このため、歌詞の細かな言葉じりに留意することや原曲のリズム感を崩さない言葉選びをすることよりもむしろ、楽曲全体を通して一つの物語になっているというところに特徴があると考え、原曲の歌詞が表す意味の内容を反映させることと子どもたちが歌って楽しめる歌詞であるかどうかという点を大切にして検討しました。

 

この曲も、その他の歌と同様にレッスンの中ではさまざまな調性で歌われます。(特に多いのはへ長調ト長調

ユーモアのある歌詞で、メロディも一度歌うとクセになるというか、脳内再生率も高めな感じかと思いますので、ぜひ皆さまも口ずさんでみてください♪

 

ちなみに、すでに発売している拙著『未来の音を聴く』の第5章にもこれらの楽譜は掲載していますが、日本語の歌詞を検討する過程についてまでは述べていませんので、ここまでの記事と合わせて楽しんでいただければ嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

 

未来の音を聴く 「音楽的な耳」を育てるウィレムスの教育

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