「聴く力」を育てる音楽教育

「聴く力」を育てる音楽教育

エドガー・ウィレムスの音楽教育研究

【第3段階】レッスンDVDの視聴記録

お待たせいたしました!

ついに、ウィレムスの第3段階のレッスン内容の公開です...!

本当に遅くなり過ぎました。

......が、だからこそ、ようやくこうして公開できることがうれしいです...!(観るのは一瞬なのに、まとめるのにすごく時間がかかる〜〜〜。)

 

第3段階の特徴

レッスン時間はこれまでと同様に60分です。

第1、第2段階の延長線上にありますが、第3段階は「ソルフェージュの準備(pré-solfégique)」および「楽器演奏の準備(pré-instrumental)」と位置付けられています。

第2段階までは、スライドホイッスルや小物楽器類、ベル、微分音鉄琴などの音に触れることが多く、歌こそたくさん歌われるものの音階の知識にはほとんど触れられてきませんでした。

しかし、この第3段階からはいよいよ本格的に音階やリズムの記譜へと結びつく実践が現れはじめ、読譜の導入が図られていくところに特徴があります。

具体的には、今回の実践では最初に微分音鉄琴が使われるのみで、それ以降は音階に依拠する実践が続いていきます。

それでも、あくまでも「ソルフェージュ準備」と言っているように、「いきなり楽譜を読んでみましょう!」とはならず、まずは音の高さの違いを捉えること、音部記号を教えること、音階、音の長さを捉えること...といった具合で一つ一つの要素を分離してあくまでもスモールステップで進められていくところに、これまでと同様のウィレムス・メソッドらしさがあると思います。

また、この段階では小さな鉄琴を用いて鍵盤楽器に触れる導入が図られていたり、そのために指番号の知識が与えられたりしています。

 

ちなみに、第1、第2段階の内容に関する記事はこちら↓。

kazuenne.hatenablog.com

kazuenne.hatenablog.com

kazuenne.hatenablog.com

 

第3段階のDVDでも、おなじみジャック・シャピュイ先生が指導しており、モデル生もフランス・リヨンにある音楽教室 l'Ecole de Musique d'Irigny Lyonの生徒さんたちとなっています。

しかし、DVDの中には一部公開レッスン形式でイタリア語の通訳の先生がいらっしゃる(つまり生徒さんたちは皆イタリア人と思われる)場面もあり、必ずしも終始上記教室の生徒さんのみというわけではなさそうです。

 

それでは、レッスン内容をご紹介していきます。

 

微分音鉄琴(約7分30秒)

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このブログではおなじみの、微分音鉄琴を使用する実践から始められました。

 

▶︎全ての鍵盤を並べた状態で先生が上行下行それぞれ順に鳴らしていき、子どもたちに音の上行or下行を尋ねる

 

▶︎子どもたちは目を瞑り、先生が鍵盤の近い二つの音を鳴らして、上がったor下がったor同じ、のいずれかを耳で聴いて答える

 

▶︎一つの音を先生が連続して鳴らし続け、その音と同じ高さの音をみんなでハミングする

 

▶︎全ての鍵盤を外し、先生と子どもたちが順に鍵盤をmixする

→この中から2枚の鍵盤を選んで共鳴箱の上に並べて鳴らし、子どもたちに上がったor下がったを答えさせる。

→もう一つの共鳴箱を使用して1枚ずつ鍵盤を置いて鳴らしていき、先の共鳴箱に並べてある鍵盤と比べて高いのか低いのかを耳で判断して正しい順に並べていく。

 

即興的なメロディと音階(約9分)

▶︎先生がピアノ伴奏をつけながら即興的なメロディを歌い、1フレーズ(4分の4拍子の1小節分)ごとにみんなでリピートして歌う(この時の歌詞は「ラ」)

→この時の実践ではこの歌はF-durだったため、ひと段落ついたところで先生は子どもたちに「何調かな?」と尋ねたが、誰も答えなかったため先生が和声をつけながら音階を弾き、その後で「faの音階だよ」と伝えた。

 

▶︎全員でF-durの上行と下行を先生の和声伴奏に合わせて歌詞は「ラ」で歌う

→この後、早めに上行下行を「ラ」で歌い、さらに「12345678〜/87654321〜」のように歌詞を数字にして上行下行する。

 

▶︎これまでと同様の流れを今度はcis-mollで

 

▶︎先生がピアノで提示するさまざまな調性(Des-dur, A-dur, H-durなど)の上行下行を、歌詞は「12345678  87654321」で歌う

→「1, 2〜2度」「1, 2, 3〜3度」「1, 2, 3, 4〜4度」のように、(言語こそ違うものの)音階を途中まで数字で歌いながら音程を確認する。

 

この「音階を数字で歌う」という実践、少なくとも私はこれまで体験したことがなかったのですが、皆さまはいかがでしょうか?

音程の幅を捉えるのにわかりやすいのではないかと思い、今後、楽典を扱う授業の中でも取り入れてみようかなと考えています。

 

音階の輪(約5分)

▶︎「ドレミファソラシド」を歌いながら腕全体で空中に一つの円を描いていく

→「ドレミファソラシド、レミファソラシドレ、ミファソラシドレミ〜」と順に歌いながら毎度円を描く。1オクターブ分歌うが、声域に応じて高くなってきたら1オクターブ下げて対応する。

→同様に下行形も歌う。

 

▶︎「ド」「レ」「ミ」「ファ」のそれぞれを主音とする音階を、開始前に8分休符を入れた形で上行形と下行形のそれぞれを音名を歌詞にして歌っていく

 

▶︎「ソ」を主音とする音階は一人の子どもに提示してもらったリズムに乗せて上行形と下行形を音名で歌う

 

音の書き取り(約4分30秒)

▶︎先生がピアノ伴奏をつけながら即興的なメロディを歌い、1フレーズ(4分の4拍子の1小節分)ごとにみんなでリピートして歌う(この時の歌詞は音名)

この実践は、先ほどの「即興的なメロディと音階(約9分)」の最初の実践とほぼ同じです。唯一違うのは、歌詞が音名になっているところです。

また、実際に見ていて明確な違いを感じる点として、こちらの実践では転調も度々出現しています。

 

▶︎「ドレミレー、レミファミー、ミファソファー...」歌いながら音高の変化を手の動きで表現する

→同様に下行形も。

→続いて「ドレミファソラソー、レミファソラシラー、ミファソラシドシー...」の形で上行下行。

 

メロディー即興(約7分)

▶︎先生が鍵盤ハーモニカで音階を弾き、即興の歌を歌う。「誰か続けてくれる?」と尋ねて挙手してもらい、先生と交互に即興の歌を繋いでいく。この時は階名唱法。

 

この実践が階名唱法、つまり移動ドによって行われていたところは特徴的かと思います。

 

読譜に向けた準備(約4分30秒)

▶︎音部記号のついていない二段の五線を使って...

→下段の五線にランダムに音符のマグネットを並べていく。

 (動画では、先生が二つ並べたあと挙手制で子どもたちに好きなところに並べさせていく)

→並べた音符を左隣のものと比較して「上がった?下がった?」と確認していく。

→上段の五線には、線の上だけ、間の上だけのそれぞれにマグネットを並べて「線と間」という概念、線の数を確認する。

 

▶︎棒付きの音符を使って...

→先生が棒付きの音符を五線の中で動かしていき、子どもたちはその動きを見て瞬時に「上がった、下がった、線の上にいる、間にいる」などと答えていく。

 

音部記号を用いず相対的な音高を捉える(約6分)

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▶︎音部記号は使わずに、音符のマグネットを五線の上に自由に並べる

→(写真のように)一つ一つの音について、前の音と比べて「上がった、下がった」を言っていく。

→一人の子どもに任意の高さの音を声に出して歌ってもらい、その音を開始音とする音階をみんなで確認してから、その音を開始音にしてマグネットの音の並びを歌っていく。歌詞は「ラ」。

 (例えば、開始音の音高が「ド」だった場合、上記を歌うときは「ドレミファソファミー、ミファミレドドド」となる)

→開始音を変えて、同様の実践をする。

→今度は一人の子どもに任意の音名を言わせる。

 この時は子どもが「ファ」と言ったので、先生が鍵盤ハーモニカでファの音およびヘ長調の音階を弾いてみんなで音名で歌って確認してから、その開始音から五線上の音を音名で歌っていく。(「ファ ソ ラ シ♭ ド シ♭ ラー、ラ シ♭ ラ ソ ファ ファ ファ」)

→音の高さを変えて、例えば「シ♭」や「レ」を開始音にして五線の音を音名で歌う

→先生が「ミ」や「ソ」など音名を指定し、それぞれを開始音として五線の音を声に出して読む。この時は歌わずに、読むだけ。

 

譜表の導入(約5分)

▶︎二段の五線の間に音符のマグネットで一点ハ音を置き、先生が鍵盤ハーモニカでこの高さの音を吹く

▶︎一点ハ音を出発点とし、一点ト音まで歌いながら音符を並べる(=ドレミファソ)

▶︎一点ト音の右隣にト音記号を置く

▶︎反対方向も同様に、一点ハ音を出発点としてヘ音まで順に歌いながら音符を並べる(=ドシラソファ)

▶︎ヘ音の右隣にヘ音記号を置く

▶︎一点ハ音を中心に、ト音記号ヘ音記号の位置までがシンメトリーになっていることを伝える

 

音の長さの可視化(約2分50秒)

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▶︎ホワイトボードに、写真のような線を適宜書く

→この線を見て、「短短長ー、短短長ー」のように、実際の声の長さにも変化をつけて読んでいく。

→短い線には四分音符、長い線には二分音符を当てて、「黒黒白ー、黒黒白ー」のように読んでいく。それぞれの名称を教える。

 

楽器演奏のための準備(約8分30秒)

▶︎子どもたちが一人一台小さな鉄琴を用いて...

→「両腕を上げて、下ろして、右腕を上げて、下ろして、左腕を...」のような先生の指示に従って身体を動かす。(日本でも「赤上げて、赤下げないで白上げて...」のような遊びがありますが、あれと似ているなぁと。)

→鉄琴の正面に立ち、脇を開いてマレットを構えさせる。身体の使い方に言及して動きを意識させながらグリッサンドで上行・下行を繰り返す。

→先生のピアノ伴奏に合わせてドから(この鉄琴の)最高音のラまで白鍵のみの上行・下行を弾く

→同様に黒鍵のみの上行・下行。

→次は半音階で、「ド ド♯ レ レ♯ ミー、ファ ファ♯ ソ ソ♯ ラー...」のように5音ずつ弾いて伸ばし、上行・下行。

→ウィレムスのメソッドでおなじみの楽曲《ことり(La perdrix)》のメロディーを弾いてみる

→子どもたちは「ドードドッドッドー」という音型を繰り返し弾き、先生がピアノで伴奏をつける

 

手と指の動き、指番号(約5分20秒)

▶︎指をひらひらさせたり手洗いのように擦ったり、親指をたてて腕を高く上げたり...など、先生のさまざまな動きを模倣する

▶︎「せーの1、せーの2、せーの3...」のように掛け声に合わせて左右の指を合わせていく

▶︎1〜5の指を反対側の2の指で「1と2と3と...」のように声に出しながら触っていく

 

音程の歌(約7分30秒)

▶︎先生がピアノの蓋の上でリズム打ちをして「これは何の歌(のリズム)?」と尋ねる。

→ウィレムスのレッスンではおなじみの《L'hiver(冬)》という「長7度の曲」だったので子どもたちもすぐに答えられる。

▶︎みんなで手でリズム打ちをしながら歌う。

▶︎同様に子どもたちにもクイズを出させてみんなで当てさせて歌う。

▶︎左手は左足を四分音符刻みで叩く。右手は右足を八分音符刻みで叩く。これをしながら《Il'était un Avocat(おさんぽべんごし)》歌う。

▶︎左手は左足を四分音符刻みのまま、右手は右足をメロディーのリズムで叩きながら《Il'était un Avocat(おさんぽべんごし)》歌う。

▶︎今度は上記の逆で左手でメロディーのリズム、右手で四分音符の拍打ちをしながら《Il'était un Avocat(おさんぽべんごし)》歌う。

→これは難しく、顔を見合わせる子どもの姿も。

 

身体の動きと拍打ち

▶︎先生が子どもたちに両手を揺らすよう促す。それに合わせて先生はピアノを弾く。

▶︎先生のピアノに合わせて空中で両手で拍打ちをする。

→少しずつテンポも曲調も変化するので、そのニュアンスに合わせる。

→三拍子、四拍子、五拍子...などと言いながら振る。

▶︎音源を聴き、その作品に合わせて指揮を振りながらみんなで縦一列に並んで歩行する。

→次第に円になる。その後、ランダムに動く。

 

以上です!

このDVD映像を次回の研究会で共有します。

研究会は3月29日(火)10:00〜12:00@zoomの予定です。

それでは、また第4段階を(そのうち)記事にしたいと思いますので、半分忘れながら気長にお待ちいただければ幸いです...!