ウィレムスの音楽教育にはいろいろな角度から興味深い点が多いですが、中でも手放しに「面白い!」と感じるところは、やはり実践そのものです。
私は2014年にイタリア・ローマで行われたウィレムス国際会議に出席した際に、その実態を知ることとなりました。
今日はそんな実践について、ほんの一部を切り取ってご紹介してみたいと思います。
まずは、この写真をご覧ください。
これは一体、何でしょう・・・?
あまりに唐突な質問で、「ただの箱でしょう?」と思われたかもしれませんね。
そしてそれは間違いではなく、確かにこれは「箱」です(笑)
でも、ただの箱ではありません・・・!
ここでいきなり正解を言ってしまいますが、これは私の作った「楽器」です。
この箱たちを振ってみると、6種類の違った音が出るように工夫してあります。
同じ音のものを2つずつ作ったので、全部で12個。
中に入れたものは、さまざまな大きさのビーズやクリップなどです。
何も入っていない空っぽの箱も、あえて1つ作ってあります。
(余談ですが、この「楽器」を作るために、手ごろなサイズの箱を探したり、似ているけれど違った音、かつ、振った時にあまり耳障りが悪くない音が鳴る中身を探したり、最後に可愛かったクマちゃんの包装紙でラッピングしてみたり、どの過程も楽しいですが、思った以上に手間と時間がかかりました。)
それでは、この「楽器」を使うと、どんな実践ができるでしょうか?
次の2分弱の動画をご覧ください。
動画の中で使われている言語はフランス語ですが、先生や子どもたちの様子からきっと内容は察せるかと思います。
L'initiation à Ryméa: appariement de timbres
この動画は、ウィレムスの実践をする音楽教室リメアRyméa(フランス・リヨン)の教室長であるクリストフ・ラジェルジュ先生が、子どもたちにレッスンをしている場面です。
まずはラジェルジュ先生が重なり合っている二つの箱を順に振って鳴らし、同じ音かどうかを子どもたちに答えさせるところから始まっています。
その後、1セットの箱をランダムに並べ替えて、そのうちの一つの箱を鳴らしながらもう1セットの箱を順に鳴らしていき、同じ音がする箱を耳で探し当てていく、という実践をしています。
動画では出てきませんでしたが、この他にも、例えば箱を一人一つずつ配って、先生はもう1セットをトレーの上でランダムに並べ替え、子どもたちは一人ずつ順番に自分に渡された箱と同じ音の箱を先生のトレーの中から探し出す、などといった実践も行われています。
その様子はまるでトランプゲームの「神経衰弱」みたいなので、私はこれを「耳の "神経衰弱"」と名付けてみました。
この実践のポイントは、大きく二つあります。
一つ目は、「耳しか頼るべきものがない」ということです。
箱の見た目では音の違いを判断できないため、子どもたちは必然的に耳に意識を集中させなければなりません。
二つ目は、「音階をもたない音の高さや音質の違いを聴き分けなくてはいけない」ということです。
ウィレムスの音楽教育では、音階に留まらない多様な音素材を用いて、それらの聴き分けや再現をしながら音のニュアンスに対する繊細な感覚を育てていきます。
こんなふうにして、ゲームのように次から次へと色々な実践が展開されていきます。
前回の記事でご紹介しました通り、1時間のレッスンで手を替え品を替え色々なことが行われるので、この実践はそのうちのほんの一部分でしかありません。
しかも、同じアイテムを使っても子どもたちの年齢や反応によって、あるいは先生によって多様なアレンジがあるようなので、その違いを見ていくのも勉強になり、興味の尽きないところです。
この他の実践についても、これからまたご紹介していきたいと思います。