「聴く力」を育てる音楽教育

「聴く力」を育てる音楽教育

エドガー・ウィレムスの音楽教育研究

【第2段階】レッスンDVDの視聴記録

ウィレムスの音楽教育のレッスンDVDの視聴記録、前回「第1段階」を記事にしてからなんと早1ヶ月も経過してしまいました!

個人的な目標では7月中に全段階の内容をまとめ上げたかったのですが、大幅に遅れていますね......申し訳ありません。

 

本日は第2段階の内容をご紹介いたします。

これまでの記事はこちら。

kazuenne.hatenablog.com

 

kazuenne.hatenablog.com

 

本日ご紹介する第2段階のレッスンは、第1段階に引き続きジャック・シャピュイ先生によって行われています。

モデル生は、フランス・リヨンにある音楽教室 l'Ecole de Musique d'Irigny Lyonの生徒さんたちです。

 

第2段階の特徴

かつてご紹介したことがあるように、第1段階と同様、第2段階もまだ「種まきの期間」という位置付けです。

しかしながら、以下の実践を見ていただくとわかるように大きく二つの特徴を見い出すことができます。

一つ目は、一つ一つの実践に対して第1段階よりも長い時間がかけられるようになっていること、二つ目は、ホワイトボードを駆使して「音の可視化」を図っていること、です。

知識を与える前に感覚として習得させることとスモールステップ化することによって無理なく音楽的な感覚を育てるウィレムスの、読譜指導へと結びつけていくための段階と考えていただくとわかりやすいかと思います。

レッスン時間は第1段階と同様60分です。

それでは早速内容に入ります!

 

スライドホイッスル(約9分)

▶︎音の下行・上行を吹いて示す

→先生がホワイトボードを使って、下図のような下から上の斜線と上から下の斜線を描き、それぞれが音の上行と下行を示すことを説明する。

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▶︎子どもたちに目を瞑らせて先生がスライドホイッスルで下図のような音型を吹き、一人の子どもを指名して同じ音型を歌わせてからホワイトボードにその音型の図を描かせる

→同じ流れを5回ほど繰り返す。

 

▶︎①〜⑤までの図形楽譜ができたところで、先生がそのうちのいずれかの音型を吹き、子どもたちに何番のものかを当てさせてからみんなで歌う

 

▶︎先生が任意の、少し長めのフレーズの図形楽譜をホワイトボードに描き、それを見ながらみんなで歌う

 

第1段階にも登場したスライドホイッスルですが、第2段階ではホワイトボードも必ず一緒に使われます。

第2段階におけるスライドホイッスルの役割は、音の動きを「見える化」することです。

第1段階の時点でも手の動きで音の動きを模倣してはいましたが、第2段階でホワイトボードに描くことによってみんなで図形楽譜として共有し、ゆくゆく読譜指導へと結びついていきます。

音の高低も、あるいは楽譜を左から右に読んでいくということも、子どもたちにとっては当たり前ではないのでこうした訓練から始められます。

 

(多種多様な)ベル(14分30秒)

▶︎同じデザインで大きさだけが異なる大中小3つのベルを使い、先生が鳴らすのを見ながら音を聴く

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▶︎3つのベルの音当てクイズ

→第1段階と同様に、ここで答える子どもは先生がしたようにベルを鳴らす

 

▶︎4つのベルのセットを使い、先生と子どもたちで順に音を鳴らしてみる

→このベルのセットはファーラード(長三和音)、ファーラ♭ード(短三和音)の二つの和音が奏でられるようにできていて(つまり、4つのベルの音構成は「ファ」「ラ♭」「ラ」「ド」)、これを使ってウィレムスのオリジナルの歌である《おさんぽ べんごしIl était un Avocat》の冒頭2小節を長三和音と短三和音のそれぞれで歌ってみる、という試みがなされました。

《おさんぽべんごし》の楽譜については以下の記事をご参照ください。

kazuenne.hatenablog.com

 

▶︎似た音高のベルを3つ、それぞれ鳴らしてからみんなで歌ってみて違いを確認し、それらを含むいくつかのベルの音当てクイズ

→これは......なかなか難しいです。

でも子どもたちは全く投げ出す様子もなく、どの子も集中して聴いていました。

 

▶︎音を旋律的に(横並びで)2つ、3つ、4つ、5つ......と増やして音当てクイズ

→最終的に5つもの音が旋律的に奏でられ、これを当てるのにはさすがの子どもたちも苦戦していました。

聴覚と記憶力がかなり鍛えられますね......。

 

▶︎見た目は全く同じベル3つを先生がシャッフルした後で、子どもたちは音を聴きながら高い順もしくは低い順に並べ替える

→みんなで聴いて、一つ前の音より「高い」「低い」などとその都度発言して正しく並べ替えていきます。

今回の実践ではベルですが、内容的には第1段階で行われる「耳の神経衰弱」と同様に耳で判断するものとなっています。

 

一連の実践で用いられたベルの種類はとてもたくさんあります。

ウィレムスの音楽教育に携わっておられる先生方はいつもたくさんのベルを持ち歩いていて、最近では私も少しずつコレクションするようになりました。

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ローマの教会で出会った「絶妙に音高が異なる」ベル

例えばヨーロッパのおみやげ屋さんではそれぞれの土地の名所などが描かれたご当地もののベルが比較的簡単に手に入りますし、同じ見た目でも程よく音高が異なっていたりするので(作り手はおそらくそんなことは全く意識していないでしょうけれど 笑)、そういうものはレッスンで重宝します。

 

即興(4分)

▶︎先生と子どもたちとで即興による歌のリレー

→先生が全音階の上行するような簡単な旋律を歌いながら「誰か続けて〜」と言い、挙手した子どもたちの中から当てられた子どもが続きを歌う。

→子どもたちは代わる代わる先生と交互に即興でフレーズを繋いでいき、先生が歌いながら次の子どもに代わる時に「終わって〜」と合図する。

→今回の映像の中では「終わって〜」と言われた子どもは終われず(終止形にならず)、先生が続けて終わらせていました。

 

▶︎先生がさまざまなスタイルのフレーズを提示し、子どもたちに投げかける

→子どもたちは先生の提示したものと同じスタイルで即興して返す。

 

ウィレムスの音楽教育のレッスンを見ていると、「子どもたちってみんなこんなにたやすく音楽を生み出す力をもっているんだ!」とびっくりします。

大人の目線で「難しそう」という先入観をもったり、固定概念にとらわれたりしてはいけませんね。

それに加えて、先生には相応の音楽的なスキルが求められると感じます。

子どもたちの生み出した音楽の中から特徴的なスタイルを感じとったら、それを使って繋いであげたいわけですし......。

私もいずれ日本の子どもたちと一緒にやってみたいです!

 

聴き歌い(?)(約3分)

▶︎先生がさまざまな和音を旋律的に弾き、同じ響きを歌う

→先生がピアノで「ファーラード(長三和音)」、「ファーラ♭ード(短三和音)」、「ファーラ♭ード♭(減三和音)」、「ミーソ♯ーシ♯(増三和音)」、「ミーソ♯ーシ(長三和音)」と奏でたのを聴いて、子どもたちは同じ音高で「ラーラーラー」と歌う

 

▶︎一つの和音を使ってアンサンブル

→ここでは「ミーソ♯ーシーソ♯ーミ」の長三和音の響きを、子どもたちを三つのグループに分けて輪唱のように歌わせる。

→常に「ミーソ♯ーシ」が和音で響く状態を作り出していました。 

 

リズム(17分)

▶︎準備運動のような即興的な動き(4分)

→(先生の動きと同時に、見よう見まねで)手を下からヒューっと上げていき、顔より上で「ブブブボン、ボッ」などの言葉とともに力強く振る。

→腿を叩きながら、同時に「ティタタタ」と言う。

→ピコピコハンマーを子どもたちに代わる代わる回して色々なリズムを叩かせる。

→先生がリズムを声に出して言いながら、ホワイトボードに下図のような線を描いていく。

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→先生の描いたリズムの線を見ながら、みんなで声に出す。

→先生がピコピコハンマーでホワイトボード上の線を叩きながらリズムを読む。(「1〜123、1〜12~、1234567〜」のように、連なった音型は数字が増えていく)

 

▶︎長短(4分)

→シンバル+マレットで子どもたちに順に自由に叩かせ、その不規則的なリズムについて先生が 'court(短い), court, long---(長い), court, long---' のように声に出して言っていく

→ホワイトボードに下図のようなものを描き、'court,court, long---...'  などとみんなで声に出しながら読む

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▶︎強弱(4分)

→シンバル+マレットを使用して、先生が実際に叩いて強弱の違いを見聞きさせる

→'doux(「弱い」というより「柔らかい」というニュアンス), doux, doux, doux, fort---(強い)' などと声に出しながら手を叩く

→先生がホワイトボードに下図のようなものを描き、それを見ながら、さらに強弱を声に出して言いながら、手を叩く

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→先生がシンバルを手で持ち、生徒にマレットで叩かせる 

 

▶︎リズム打ち(5分)

→子どもたちのうちの一人を指名し、任意のリズムで自分の腿を叩かせる

→そのリズムを先生が声に出してみんなに伝え、各自自分の腿を叩いて再現する

→リズムを言うだけ(腿は叩かない)→腿を叩くだけ(言わない)、の流れを繰り返す

→リズムを言うだけ→腿を叩くだけ→声に出して言いながら腿を叩く→頭の中でリズムを鳴らす(実際には言わないし叩かない)、の流れを繰り返す

→上記の実践に先生が即興でピアノ伴奏をつけるのでつられずに繰り返す

 

この実践、なかなか文章化しにくいのですがイメージわきますでしょうか?

実際に見ているとかなり面白いですし「脳トレ」っぽくて鍛えられます。

ウィレムスの実践が内的聴感の育成に重きをおくものであることはこれまでにもいくつかの記事で触れてきた通りですが、リズムの実践においてもここでの実践のように「頭の中で聴く」ことを意識的に行なっていることは特徴的かと思います。

 

歌(12分)

▶︎《チクタク》 ※ウィレムスのオリジナルの楽曲です

→先生のピアノ伴奏に合わせて歌う

→左右に揺れながら歌う

→二本の木の棒を歌のリズムに合わせて叩きながら歌う

→2つのパートに分かれて輪唱する

 

▶︎《ことり》

→先生のピアノ伴奏に合わせて歌う

→「ドレミ、ミファソ......」など音名の歌詞に合わせて手の動きをつけながら少しゆっくり歌う

→同じ動きをしながら in tempo で歌う

→曲全体を音名で歌う

→先に歌った《チクタク》も同様にみんなで音名を確認しながら歌う

 

kazuenne.hatenablog.com

 

▶︎曲名不明 

→歌詞と同じリズムを打ちながら歌う

→四分音符きざみで拍を打ちながら歌う

→二分音符きざみで拍を打ちながら歌う

→八分音符きざみで拍を打ちながら歌う

→タンバリン、ウッドブロック、トライアングルのリズム隊はそれぞれ四分音符、二分音符をきざみ、その他の子どもたちは歌詞と同じリズムを打ちながら歌う

 

動き(1分)

▶︎先生のピアノに合わせて動く

→歩行、ジャンプ、左右に揺れる...など。

 

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以上です!

第3、第4段階についても順次まとめていきます。