「聴く力」を育てる音楽教育

「聴く力」を育てる音楽教育

エドガー・ウィレムスの音楽教育研究

『No. 0 子どもたちの音楽の導入』

前回の記事では、ウィレムスが教育実践についてまとめた著書『教育の覚え書き帳』についてご紹介しました。

kazuenne.hatenablog.com

 

今回は、その中から『No. 0 子どもたちの音楽の導入』を取り上げます。

f:id:kazuenne:20171110233214j:plain

 

ウィレムスの音楽教育は、4歳(3歳)から始められる

全ての子どもを対象とするウィレムスの音楽教育は、「どんなに早くとも4歳から始めること」と述べられています。

しかし、本書には具体的な実践内容を年齢別に記した表も載っているのですが、そのカテゴリー分けを見ると、「4(3)〜5歳」というように、括弧書きで3歳が含まれています。

さらにウィレムス自身、この音楽教育を幼稚園や小学校といった公教育の場で実践することも想定しており、そうなると導入の年齢をスパッと4歳から、とは分けられないからこういう記述になっているのかなと想像するのですが・・・そこについては明確には述べられていません。

また、現在ウィレムスの実践において中心的な立場にあるフランス・リヨンの音楽教室リメアのホームページにも「3歳から」と記載されており、私が出席したウィレムス国際会議の公開レッスンでも、3歳の子どもたちも参加していました。

以上のことを踏まえ、さらに公教育的な視点から「年度」という概念も考慮に入れて、今のところ「4歳になる学年の3歳から」と捉えているのですが、皆様どうお考えになりますか・・・?

 

ウィレムスの音楽教育の目的

ウィレムスは、音楽教育の目的として以下の5つを挙げています。

1.子どもたちに音楽を好きにさせること。また、喜び(joie)の中で音楽や声楽、器楽の実践に向けた準備をすること。

 

2.たとえ子どもたちが特別な才能に恵まれていなくとも、音楽を学ぶことの可能性を生き生きとした教育学的方法によって与えること。

 

3.全ての子どもに可能な限りのチャンスを与えること。音楽的な活動の基本的な諸要素は、全ての人間の特性でもある。

 

4.幼少期から、人間の根源に基づく音楽教育を与えること。音楽の基本を教えることのみならず、特に音楽の「芸術」の基礎を確立すること。

 

5.生き生きとした音楽によって、子どもたちの能力を開花させること。

 

「喜び」を意味する 'joie'(「ジョワ」と読みます。余談ですが日本でお馴染みの飲み物、ヤクルトのジョアは、これが語源だそうです)と、同様の意味を持つ 'plaisir' という二つの単語は、ウィレムスの実践の中で本当に頻繁に使われています。

以前、ウィレムスの実践が4つの段階によって構成されていて、その最初の2つの段階は「音楽を愛することを学ぶ」期間と位置付けられていることを書きました。

kazuenne.hatenablog.com


このことからもわかる通り、まさに、「好きこそものの上手なれ」という考え方です。

先に教え込むのではなく音楽を「好き」という気持ちを育ててしまおう、そうすれば後は放っておいても育つだろう、というウィレムスの考え方に共感します。

何事においても、「好き」という気持ちは自発性や主体性を高める原動力になると思うからです。(あとは、ハングリー精神も!)

4番目と5番目についても、子どもたちの美的な意識を育むために重要なことは、大人の目線で「子どもにはまだ早いかな・・・」と決めつけてしまうのではなく、その場しのぎではない、本当に良い素材を吟味して提供することだと考えています。

(子どもの実態を無視する、ということではなく)

すぐには理解できなくとも、ほんのり心の中に残って、何年後、何十年後になってようやくわかる、ということもあると思います。

見極めが難しいですが、早いうちに良い種をたくさん蒔きたいです。

 

指導者に望む基本的な条件

1.子どもたちと音楽を好きであること。

2.音楽教育の心理学的な基礎と子どもの心理学を同じくらいよく知っていること。

3.人間を育成する手段として音楽を考察すること。 

 

この3つを挙げています。

子どもを好きであることや子どもの心理学に通じていることは、愛情深く指導していく上で実はかなり重要なポイントになりますよね。

音楽に関する豊富な専門知識や、高い演奏技術があれば良い先生かというと、決してそれだけではないはずです。

でも、最初から「子どもが好き!」と断言できなくても、子どもたちと関わっていくうちにいつの間にか大好きになっていた、なんてことは十分期待できるはずですので(実は私もそうでした)、もしこれから指導者を目指す方が読んでくださっていたとしても今から心配しなくて大丈夫です。

ちなみに、ウィレムスは本書の中で「指導者の人間的な価値は、教育内容と同じかそれ以上に重要な意味をもつ」ため、指導者は、「生に対して非常に敏感であるべき」だと述べています。

これまでお世話になってきた先生方を思い浮かべて、本当にそうだなぁ・・・と実感します。

 

レッスン内容と時間配分

レッスン時間については、ウィレムスは1回につきおおよそ1時間、と定めています。

具体的な内容は、

1.聴覚育成に向けたアプローチ(20分)

2.リズム(10分)

3.歌(20分)

4.音や音楽に合わせた身体の動き(歩く、走る、跳ねる、揺れる、など)(10分)

 

このように分類されており、現在行われている実践を見てもこんな感じの時間配分になっているように思います。

聴覚育成と歌がそれぞれ20分ずつで他の二つより長いですが、実際に歌は聴覚の発達を促す目的でたくさん用いられていて、ウィレムス自身によるオリジナルの楽曲もたくさんあります。

子どもたちはこれらの歌が大好きです。

1時間というと子どもたちにとってはとても長い時間ですが、とにかく先生方の実践のアイディアが豊富で、ゲームのような楽しい実践を次から次へテンポ良く切り替えていくので、子どもたちの集中力は途切れません。

最初に実践を見せていただいた時、先生方が魔術師か何かに見えたほど、これには本当にびっくりしました。

 

今日は『教育の覚え書き帳』の中から『No. 0 子どもたちの音楽の導入』に書かれてある内容をざっくりとご紹介させていただきました。

まだ私自身の読み込みが甘い部分や、他の著書を参照しないと理解が追いつかない部分がありますので、またそのうちに研究を進められたら追記したいと思います。