「聴く力」を育てる音楽教育

「聴く力」を育てる音楽教育

エドガー・ウィレムスの音楽教育研究

ウィレムスの実践における「4つの段階」

いま世界のあちこちで行われているウィレムスの音楽教育実践は、第1段階から第4段階までの「4つの段階」によって構成されています。

「4つの段階」という大枠を提示することによって、「ウィレムスの音楽教育」としての各国の教育水準を統一しているともいうことができます。

しかしながら、実はこの「4つの段階」の概念は、ウィレムス自身が構築したものではありません。

詳しくはまた追々書いていこうと思いますが、ウィレムスは著書の中で「4(4歳になる学年の3歳も含む)〜5歳」、「5〜6歳」、「6〜7歳」というような3つの年齢区分に「指導者(が知っておくべきこと)」というカテゴリーも加えて、それぞれに必要となる実践内容や教育的要素を一覧にしてまとめています。

現在の「4つの段階」は、このようなウィレムスの考えに基づいて後から作られました。

さて、そんな第1段階から第4段階までの「4つの段階」について、それぞれの段階で何が目指されているのか、今日は簡単にまとめてみようと思います。

 

第1段階:音楽の導入

第1段階は「音楽の導入」、種まきの期間と考えられています。

「音楽を愛することを学ぶ」ことを念頭においているので、この時期には何よりもまず、子どもたちがさまざまな音に触れ、親しむことが重視されています。

そのため、「レッスン」とはいっても遊びのように打ち解けた雰囲気の中で、「できる・できない」は全く問題とせずに、とにかくたくさんの音のシャワーを浴びせていきます。

子どもたちは、まずは音を聴き、その音の高低、強弱、速度変化、音色などといったニュアンスを聴き分け、自らの身体を使ってそれを模倣していきます。

そのうちに子どもたちの一人一人が、即興でリズムやメロディを作り出すようにもなります。

簡単で楽しい、オリジナルの歌もたくさん歌います。

指導者は一つの教育目的のためにいくつものアプローチをもっていて、次から次へと手を替え品を替え、3〜4歳の子どもたちを飽きさせることなくレッスンしていきます。

大人の私が見ても楽しくて、先生方の引き出しの多さには感銘を受けます。

 

第2段階:音の動きを可視化する

第2段階も基本的には第1段階の「音楽の導入」が継続し、まだ種まきの期間と考えられていますが、少しずつ音の上行下行の変化を図式化していくことも求められはじめます。

このことによって、子どもたちの「音に対する意識」をより強化していきます。

幼少期の子どもたちにとって、「低→高」を紙の上で表現すると「下→上」になるということや、「左→右」に読み書きしていくということは、決して当たり前ではありません。

第2段階で音を図式化して「見える化」することによって、このことに気づくことができます。

そして、この第2段階での実践の積み重ねがそのまま楽譜の読み方や書き方を学ぶことに直結していきます。

 

第3段階:感覚的に得たものを知識へと結びつけるための「準備」

第3段階は「ソルフェージュの準備」と「楽器演奏の準備」の二つに分けられます。

ソルフェージュの準備」の実践は、基本的には第1段階と第2段階の延長になりますが、一つ一つの要素がより深められ、第1・第2段階と比べて一つの実践により多くの時間がかけられるようになっていることが特徴的です。

それまで感覚的に習得してきたものを裏づけるものとして、少しずつソルフェージュや楽器の演奏に向けた理論的な学習に入っていきます。

また、第3段階からはいよいよ五線を用いて記譜や読譜の準備が始められます。

とはいえ、まだ音部記号は用いられません。

開始音は問わずに音の高低を読み取って歌うなど、楽譜について学習していくためのあくまでも「準備」が行われます。

「楽器演奏の準備」では、楽器を演奏する上で不可欠となるテンポやリズムの意識、音階と鍵盤との関係性、和音や調性の意識など、楽器を演奏する上で必要となる知識や感覚の育成に向けた実践が行われます。

 

第4段階:ソルフェージュと楽器演奏

第4段階になると、ソルフェージュのグループレッスンに加えて、いよいよ楽器の個人レッスンも始まります。

「やっと楽器の演奏に入るの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

けれど、この時点ですでに、子どもたちはさまざまな音を聴き分けられる耳をもっていて、楽譜も読めて、聴いた音を楽譜に書き起こすこともできて、即興で何かを表現することもできる。

つまり、「自分の言葉として」音楽を表現することができ、そのための「手段」として、適切だと思う楽器を自分の意思によって選ぶことができます。

これは、音楽を感受し、表現していく上で、誰にとっても本当に大切な能力だと思います。

 

ウィレムスの音楽教育として現在行われているこの「4つの段階」の一連の流れを見ると、つくづく「急がば回れ」の教育法だなぁと感じます。

それぞれの段階での具体的な実践内容も含めて、細切れになるとは思いますが、これから少しずつ掘り下げて書いていきたいと思います。